エンバイロンメタル・ディフェンス報告書
リチャード A. デニソン
それは無害ではない
カナダ、EU、アメリカの化学物質政策の比較分析

エグゼクティブ・サマリー

情報源:Not That Innocent
A Comparative Analysis of Canadian, European Union and United States Policies
on Industrial Chemicals
RICHARD A. DENISON, PH.D.
Senior Scientist, Health Program, Environmental Defense
Washington, DC USA
In cooperation with Pollution Probe
http://www.environmentaldefense.org/documents/6150_NotThatInnocent_ExecSum.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年6月10日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/ed/ed_not_that_innocent_summary.html

 今日、産業化学物質は世界中いたるところに存在する。それらは実質的に我々が使用する全ての化学品の製造のための原料または中間製品であり、我々が毎日消費する多くの消費者用及び商業用製品中に含まれる成分である。しかし、化学物質は広く使用されているにもかかわらず、かつては、特に職場以外ではほとんどの産業化学物質に暴露することはありそうにないという考えが広くいきわたっていた。しかし我々は現在、これらの化学物質のあるものは実質的には全ての人々の体内に、そして地球上の最も離れた地域の野生生物や生態系にも蓄積していることを知っている。しかし我々はそれらがどのようにしてそこに到り、またその存在が我々のそして地球の健康にとって何を意味するのかについて、やっと理解し始めたばかりである。

 過去数十年間、そのような化学物質に関する我々の考え方は、安全性または有害性を立証できるデータは欠如しているが、それらは安全であることを前提とするというものであった。今日、これらの化学物質のうちのあるものは人の健康と環境へ悪影響を及ぼしていることを示す証拠が増大している。

 人の体内や環境中に化学物質が広く存在すること、それらのあるものは害をもたらすことを示す証拠が増大していること、及びそのような悪影響を予測または防止することに我々の政策が無力であること−などの要素のために、世界中で化学物質政策の大改革を求める緊急性が高まった。既存の化学物質政策では化学物質の懸念を効果的に特定し、そのリスクを管理し、より安全な化学物質の開発と使用を促進することができなかったという認識が増大したために、状況が一変した。

 過去数十年間、政府の政策は、すでに市場に出ている数万種の化学物質は無害であるとする強い前提に基づいていた。有害性を示す明確な証拠がなければ、製造者はそれらの化学物質は適切であるとして製造し使用する自由を大幅に与えられていた。これらの政策は、医薬品や農薬のような他の分類の化学物質で採用されている”無害であることが証明されるまでは有害である”ことを前提とするというアプローチと比べて著しく対照的である。、医薬品や農薬のような物質について製造者は、少なくとも意図した使用においては安全であることを立証するに足る十分な情報を政府に提供することを義務付けられている。

 これとは対照的に産業化学物質では全く逆である。政府、したがって公衆がその有害性を立証しなくてはならない。ジョセフ・フェラーの古典的作品”キャッチ22(Catch-22)[訳注1]”の堂々巡りのように、政府は、実際にリスクが存在するかどうかを決定するのに必要な情報について、潜在的なリスク、あるいは少なくとも広範な暴露を証明するために必要な十分な情報を事前に持っていなければならない。これらの政策は、政府が重大なリスクを示す情報に基づいて化学物質を規制するために措置をとることについて政府により大きな責任を課すものである。政府は、化学物質の製造または使用を制限するためのどのような措置をもとる前に、その化学物質にはリスクがあるとする全ての合理的な疑いを実証しなくてはならない。そして、化学物質の製造者または使用者から情報を入手するために非常に限られた選択肢しかない非常に制限的な”発見する権利(right to discovery)”の下で実施するというのが通例である。

 そのような政策の重大な結果として、政府、公衆、そしてしばしば、これらの化学物質を製造し使用する会社は、それらの化学物質の大部分についてその潜在的なリスクをほとんど知らないということである。さらに、会社はよりよい情報を生成することについてほとんど、又は、まったく動機(インセンティブ)がないということである。会社がそのような行為を自主的に行うということは、有害な証拠が発見され、政府による規制の引き金となる可能性が増すだけであると会社はみなすように見える。よい情報が欠如しているということは、我々はどの化学物質がリスクを及ぼすのか、あるいは及ぼさないのか分からない、したがって可能な代替がどれなのか分からないということを意味している。

 しかし、数十年間にわたるこのような比較的受身なアプローチの後に、変化が感じられるようになった。ついに、評価されていないあるいは評価中の化学物質の負の遺産に目を向ける努力がなされるようになった。それらには下記のようなものがある。
  • アメリカにおける自主的高生産量(HPV)化学物質チャレンジ・プログラム。アメリカで使用されている高生産量化学物質約 2,000種 の潜在的なハザードに関する基本的なスクリーニング情報を生成している。
  • カナダにおいて1999年に法律によって定められ、最近完成した国内物質リスト(DSL)分類。これはカナダにおいて過去20年間にわたり市場に出ていた概略23,000種の未評価の化学物質に関する入手可能な情報を初めて検証したもので、その中から潜在的なリスクのさらなる精査が必要であるとしてを4,300種以上の物質を特定した。
  • もっとも野心的なものとして、欧州連合の REACH と呼ばれる新たな規制。これは化学物質の登録、評価、認可を意味する。2006年12月に採択された REACH は、ヨーロッパで市場に出ている約30,000種の化学物質の製造者と使用者にそれらを登録し、それらの製造、使用、ハザード及び暴露に関する情報を提供することを求めている。”非常に高い懸念がある物質”として特定された化学物質については、明示的に認可された場合にのみ、REACH はそれらの使用を許す。
 これらの例は、それぞれの支配の及ぶ地域内における化学物質政策の小宇宙を提供するものであり、それぞれによって提供される機会と限界の両方に洞察を与える。

化学物質政策の中核機能のための最良の実施(Best Practices)

 この報告書は、アメリカ、カナダ、及びEUの化学物質の評価と管理へのアプローチを比較することによって集められた”最良の実施”を特定する。これらの政策は、それらが提供することを意図した中核機能に関連した多くの共通要素を含む。この報告書は下記に示す6つの機能要素を中心にして構成されている。
  • 懸念ある化学物質を特定し、優先順位をつけること
  • 化学物質及びその製造と用途を特定し、追跡すること
  • リスク関連情報の生成と提出を促進し又は要求すること
  • ハザード/暴露/リスクを決定するための情報を評価すること
  • リスクを軽減するための管理を課すること
  • 情報を共有し公開し、企業機密情報を保護すること
 3つの政策(アメリカ、カナダ、EU)のそれぞれの特徴に関連した”最良の実施”の概要がここに示され、さらなる詳細はこの報告書のそれぞれの節で述べられる。

■懸念ある化学物質の特定と優先度(第U節)

 化学物質政策は、懸念ある化学物質を特定し、情報要求を決定し、評価する化学物質を優先付け、そしてどのようなリスク管理が必要かを決定するのための明確な基準によって裏打ちされるべきである。リスクベース基準とともにハザード基準及び暴露基準が調和して結合されるべである。

比較:

  • アメリカでは、基準はほとんどなく、明確に表現されておらず、通常はケースバイケースで適用される一般的指針として表現される。その結果、米環境保護庁が、どの化学物質を懸念しているのか、どのようにそれらは特定される又は優先付けられるのか、又はいつリスク評価又はリスク管理が正当化されるのかについて、どのように決定を行うのか透明性又は明確性がほとんどない。柔軟性及び専門的判断が必要であるが、決定についての明確性と説明責任もまた必要である。

  • カナダでは、ハザード及び暴露基準は、特に国内物質リスト(DSL)分類プロセスでは、大いに使用されている。カナダはまた、新規化学物質のための情報要求を決定するにあたり、製造量及び放出量基準を使用する。有害物質を定義し、実質的な除去のために有害物質又はその候補をリスト化するための比較的明確な基準が明示されている。

  • REACHでは、懸念ある化学物質を特定し管理する目的でハザード基準を広範に使用することが期待される。

■化学物質及びその製造と使用の特定と追跡(第V節)

1.届出:
 もし特定の条件に従う場合にのみ届出者による製造が許可されている新規化学物質について、同じ化学物質を製造又は輸入しようとする他のどのような会社も完全な届出と見直し手続きを全て行うことが求められるべきである。

比較:

  • アメリカでは、製造前届出(PremanufactureNotice/PMN)に関する決定に対してEPAが重要新規利用規則(Significant New Use Rules / SNURs)を発行した比較的少数のケースを除いて、EPAが後続の会社が使用している方法又は化学物質の用途を知らない又は知る能力がなくても、後続の会社はその化学物質を製造又は輸入することができる。
  • カナダは、すでにこの要求をすでに満たしている。
  • REACHは、化学物質の各製造者又は輸入者に、他の製造者と共に又は単独で登録することを求めている。
2.化学物質の製造と使用に関する情報の更新:
 化学物質の製造、川下処理、用途、及び暴露に関する情報の頻繁な定期的報告要求と、そのような情報に著しい変更が生じた場合には直ちになすべき報告要求との組み合わせは、政府に対し市場にある化学物質を効果的に追跡できる最良の方法を提供するであろう。理想的には、年次報告が求められるべきであるが、実際の報告頻度がもっと少ないならば、年間合計量と使用パターンは毎年報告されるべきである。

比較:

  • アメリカのシステムは定期的な報告であるが、しかしそれは5年毎である。著しい変更を報告するための一般的に適用できる要求はない。暴露に関するいくつかの情報は要求され、また高生産量化学物質については川下の処理と用途に関する情報は報告されなくてはならない。
  • REACHには定期的な報告システムはないが、著しい変更及び上位階層登録値に達したなら報告が求められる。
  • カナダのシステムには定期的な報告はなく、年間製造量が10,000キログラム(10トン)までの新規化学物質について階層化された届出があるだけである。
■リスク関連情報の生成及び提出の促進又は要求(第W節)

1. 新規化学物質情報要求:
 製造量が大きくなるにつれて、及び用途の範囲又は多様性が広がるにつれて、情報量も増大する階層的届出又は登録体系が新規化学物質について採用されるべきである。重要なデータ要求がなくても政府に潜在的な懸念を監視するための機会を与えるために、製造前段階における最初の届出要求に考慮が払われねばならない。しかし、そのようなアプローチは、大きな製造量に達する前ではなく着手時における届出を含んで、後続届出にも加えられる必要がある。
 政府は、綿密な評価を実施するために必要なら追加情報を要求する広範な権限を持つべきである。政府は、化学物質の製造量がが上位の階層に到達したら、潜在的なハザード又は暴露が変化したかどうか及び追加的な情報又はリスク管理が必要かどうか決定するために、それを検証する又はそれを求める権限を与えられるべきである。

比較:

  • アメリカでは、届出は製造前であり、早い時期に潜在的な懸念に目を向けることができる。しかし届出のほとんどは実質的にはリスクに関連するデータがなく、EPAは届出者とケースバイケースで情報を提供するよう交渉しなくてはならない。製造着手後のある時点で追加情報を生成し提出することを特定の化学物質の製造者又は輸入者に課さない限り、EPAは化学物質が市場に投入された後には、それを再評価する権限はない。
  • カナダでは階層的届出又は登録アプローチはすでに採用されており、EUでもREACHの下で各階層に定められる特定のデータ要求のある階層的届出が採用されるが、それは製造が始まった後に適用される。
  • カナダ環境保護法(CEPA)及びアメリカ有害物質規制法(TSCA)とは異なり、REACHでは登録を政府のレビューと結び付けないので、化学物質は政府のレビューがなくても製造が開始又は継続されるかもしれない。
2.既存化学物質−情報の生成及び提出:

 政府は、潜在的な又は実際のリスクを証明しなくてはならないという必要なしに、関心ある又は懸念あるどのような化学物質の潜在的なリスクの徹底的な理解を得るために政府が必要であるとみなすテストデータ又はその他の情報を産業側が生成又は提出するよう求める広範な権限を持つべきである。政府は、既存の化学物質から潜在的なリスクの証拠をすでに持っている場合には、そのような情報を求めることを要求されるきである。

 化学物質の製造者と使用者は、製造又は使用している化学物質が著しいリスクを及ぼすことがあるということを示唆する情報を生成、受領、又は知った場合には、速やかにそれを報告するよう求められるべきである。

比較:

  • アメリカとカナダでは、政府は産業側に新たなリスク情報を生成することを求めるために、化学物質の潜在的なリスク又は毒性、又は広範な潜在的な暴露についての十分な証拠を持たなくてはならない。もし政府が一般的に入手可能なそのような情報が不足しており、もっと情報がなければ必須の証明が難しいなら、このCatch-22 (訳注:堂々巡り)は、テストと情報生成は既存化学物質の大部分について要求されていなかったことを意味している。
  • アメリカとカナダでは、政府がすでに存在する情報の提出を求める場合には、そのようなリスク又は暴露の発見は必要としない。
  • アメリカでは、情報生成又は提出要求を課すためには完全な公告・意見聴取ルールメーキング手続き(full notice-and-comment rulemaking)が必要であるが、カナダでは大臣による告示公表だけで行うことができる。
  • アメリカ、カナダ、EUともに、化学物質の製造者及び使用者は著しい潜在的なリスクを示す新たは情報があれば速やかに報告することが義務付けられている。
  • 登録時に、REACHは製造者に対し入手可能な情報を提出し、該当する登録要求の下に特定される新たな情報を生成すること(又は生成することを提案すること)及び提出することを求めている。該当する登録要求の下に特定される範囲を超えて登録者に情報生成を求めるためには、加盟国又は欧州委員会による承認を含んで広範な手続きがとられなくてはならず、登録者にはその決定にコメントする又は提訴する権利が与えられている。
■ハザード/暴露/リスクを決定するための情報評価(第W節)

1.新規化学物質の検証と評価:
 政府は全ての新規化学物質を検証することが求められるべきであり、そのために十分な情報と時間が与えられるべきである。たとえ重要なデータ要求がなくても、政府に潜在的な懸念を喚起する早期の機会を与えるために、製造前の段階において最初の届出と検証を求めることに考慮が払われるべきである。しかし、そのようなアプローチは、製造の着手後ではあるが著しい製造レベルに達する前の届出が引き続き行われる必要がある。

比較:

  • アメリカとカナダでは、政府の検証は新規化学物質に求められる。しかし検証のための時間は短く、もし検証期間中に決定がなされなければ、化学物質の製造者は製造に着手してもよい。アメリカでは、新規化学物質検証のための事前届出は潜在的な懸念を早期に特定する機会を与えるが、届出とともに提出されるべき最小の情報ベースセットがないので、EPAが徹底的な時機を得た検証を行う能力を大きく阻害している。
  • カナダ及びREACHの下では、最初の検証は製造者が製造に着手した後に実施されるが、最小のデータセットの情報提供がなされる。
  • REACHの下では、新規化学物質の評価は政府ではなく産業側によって実施される。これらの評価の政府による評価(審査)は登録手続きとは完全に切り離されており、その結果新規化学物質は、登録者によって提供される情報は又は採用されるリスク管理措置について、どのような政府の検証や承認もなしに新規化学物質は製造又は輸入に着手してもよく、もしかすると無期限に続けられる。
2.既存の化学物質の検証と評価:

 政府は、公衆のメンバーによる推薦を含んで、既存の化学物質のアセスメンのための優先順位が特定される公式なメカニズム、及び評価を実施することの決定が合理的な時間枠の中でなされる透明なプロセスを提供すべきである。化学物質を禁止する又は制限する国家又は地方の政府、又は国際的機関による決定は、法的強制力のある評価の引き金となるべきである。

 政府はまた、実施するどのような評価に関しても、さらなる行動が必要とならないような決定を含むことができる確定的な決定に達すること、及び合理的な期間内にこれらの決定とそのベースを公にすることを求められるべきである。

比較:

  • アメリカにはそのような公式なプロセスは存在しない。
  • カナダには、そのようなプロセスが明記されている。
  • REACHの下では、政府は既存の化学物質をアセスする権限を持っている。
    評価のための化学物質を選択するためのプロセスが明記されており、一度選択されると、評価を行うためのプロセスと時間枠もまた明記されている。しかし、そのような評価が実施されるべき概略のペースの最小数又は指示は明記されていない。そのような評価中に、化学物質、そのリスク及び採用されるリスク管理の適切性に関する情報は登録者が供給した情報だけである。
■リスクを緩和するための規制を課すこと(第Y節)

1.新規化学物質のリスク管理:
 ハザード又は暴露特性に基づく基準は貢献の化学物質を特定するために確立されるべきであり、政府は基準に適合する化学物質に関するリスク管理措置を課す権限を与えられ要求されるべきである。

比較:

  • アメリカとカナダでは、例えあってもそのような基準はほんのわずかしかなく、その結果、新規化学物質に関するリスク管理の行動はほとんどの場合ケースバイケースでとられ、相対的に頻度が少なく、透明性に欠けるやり方である。
  • REACHはそのような基準を設ける。
2.既存存化学物質のリスク管理:
 既存化学物質がリスク管理を必要とする十分な懸念があるかどうかの決定は、ひとえにそのハザード、暴露、又はリスク特性に基づくべきである。社会経済的要素はどのような措置が必須であるか決定する上で重要な役割を果たすかも知れないが、化学物質が規制を正当化するかどうかについての決定に影響を与えるべきではない。  既存化学物質のリスクを管理するために政府にかかる負担は、新規化学物質のためのリスク管理より大きくあるべきではなく、潜在的及び報告されているリスクに目を向ける規制を課すことができなくてはならない。

比較:
  • アメリカでは、社会経済的要素は、EPAが既存の化学物質を規制するために作らなくてはならない調査結果の中で中心的な役割を果たすものであり、その負担は新規化学物質に比べて既存化学物質の方がはるかに高い。
  • カナダでは、”どうか(whether)”対”いかに(how)”について議論がもっと分かれ、潜在的なリスクはリスク管理行動(この報告書の第U節を参照のこと)の引き金とするために使用される CEPA-oxic の定義の中に含まれている。しかし、これらの要素が実際にカナダがもっと容易に既存化学物質のリスクに目を向けることを可能とするかどうか不明確である。
  • 紙の上では、少なくともREACHはこの”最良の実施(best practices)”に合致しているように見えるが、検証するための実施追跡記録を持っていない。
■情報の共有と公開及び企業機密情報の保護(第Z節)

1.企業機密情報(CBI)及び情報公開とアクセス:

 提出された情報の機密を保つために、提出者には下記が求められる。
  • どの情報が機密を保たれるべきか正確に明示すこと。
  • そのような要求は、十分な正当性と証拠を書面にて提出時になされること。
  • その要求を実施する期間を特定し正当性を示すこと。
 政府には下記が求められる。
  • どのよう根拠が許容される正当性となるのか及びどのような条件の下にそのような要求は許可されるのかを含んで、どような情報が機密要求を伴わなくてはならないかを特定すること。
  • 提出された情報に関する行動の一部として時機を得たやり方で全ての機密要求を検証し、その要求を受け入れるか拒否するかについて決定すること。
  • 要求が受け入れられた場合、新たな要求が提出され受け入れられない限り、その後の公開が行われるまでの期間を設定すること。
 政府は下記が可能であること。
  • 政府は、機密要求を拒否した提出情報について、提出者が要求を修正するための合理的な機会を与えた後に公開すること
  • CBIであってもそれが公共の利益になる場合にはそれを公開すること。
 健康と安全情報は、決してCBI保護の対象とされるべきではない。原則として、関連する化学物質と情報提供者との特定もまた保護対象として不適格である。政府はどのような例外についてもその根拠を明示的に述べるべきである。

 作業者は、CBI保護対象であろうとなかろうと、彼らが取り扱う又はは彼らが作業中に暴露する可能性のあるどのような物質についても、化学的同定、特性、ハザードと職場暴露全ての入手可能な情報にアクセスできるべきである。

 国内州政府、地方政府、自治体、部族又は外国政府など、他のどのような政府も、適切な合意の下にそして受領者が情報の機密を保つための適切な措置をとる場合には、行政目的又は法の執行のためにCBIへのアクセスを与えられるべきである。

 政府は、行政上又は国内法の実施に必要な又は役に立つかもしれない、他の政府に提出されたCBIを含む化学物質情報にアクセスできることを確実にすべきである。これを実現するための方法は下記を含む。
  • 会社が製造、輸入、又は国内で所用する化学物質について他の政府に提供するどのようなリスク関連情報についての要求を制度化すること。
  • CBI、これらの政府に提出された又は入手可能な情報を含む化学物質情報への完全なアクセスのために他の政府の中の対応者と合意を協議すること。
  • 大量の化学物質情報を受け取り、処理し、利用し、アクセスできるようにするために、既存の情報技術基盤を確立する又は強化するための十分なリソースを確保すること。
 政策は、決定の文書及びそれらの根拠と共に化学物質について容易にそして公的に可能な限り多くの情報を入手できる要求を明示的に含むべきである。

比較:

  • アメリカではCBIの開示は人の健康又は環境を保護するために必要である場合を除いて一般的に禁止されている。EPAはCBI要求を検証し、受け入れる又は拒絶することを求められておらず、表向きの正当性の検証は日常的には求められていない。アメリカは何がCBI主張を合法であるとみなすかの基準を策定したが、それはケースバイケースで対処しなくてはならない難題であり、非常にリソースを必要とする。CBI主張は期限がなく、権利が再度主張されたり再度正当化される要求はない。健康と安全性調査はCBIとして主張することはできないが、関連する化学物質と提出者との同定については主張することができる。TSCAはCBIとして主張された情報を州、地方、部族または外国の政府を含んで、連邦政府外の誰(契約者以外)に対しても開示することを禁止している。TSCAは機密とみなされる情報の開示を義務付けたり推進することは一般的にない。

  • カナダでは一般的にCBIはそれが公益にに適い、その公益は明らかに個人の損害よりも重い場合にのみ開示される。CEPAはCBIの主張は実施機関によって定められた情報によって支えられることを求めており、それは新規物質の届出のための指針の中でなされてきた。これらの指針はCBI主張の表向きの正当性の説明を求め、政府が検証と承認または拒否を行うことを求めた。CEPAは健康と安全情報のためにCBI保護を除外する例外を設けていない。CBIとして化学物質の同定を考慮する要求に対して、この指針は、政府がそのような要求を受け入れるかどうか判断するために使用できる比較的広範な情報が提出されるべきことを求めている。CBI主張は期限はなく再度主張することは求められない。TSCAとは異なり、CEPAはCBIを国内外の他の政府と共有するための広範な権限を与えている。アメリカと同様にCEPAは一般的に機密とみなされる情報の公開を義務付けたり推進することはない。

  • REACHは3つのクラスの情報を規定している。すなわち一般的にCBIであるとみなされるもの、常に公開されるべきもの、CBIとしての保護に対し受け入れられる正当性が提出または承認されなければ公開されるべきものの3種である。CBIの表向きの正当性は主張がなされた時に提出されなくてはなならない。新規化学物質については、化学物質同定は6年間までCBIとして主張することができる。他の方法では、REACHはCBIステータスの期限満了を提供しない。TSCA及びCEPAとは対照的に、REACHは、政府の決定やそれらのベースを含む非機密情報への公衆のアクセスを求める多くの用意がなされており、そのような情報のほとんどはインターネット上で無料で入手できることを義務付けている。CEPEと同様に、REACHはCBIを他の国内外の政府と共有するための広範な権限を提供している。

2.化学物質サプライチェーンでの情報の流れ:
 政府は積極的に化学物質サプライチェーンの中で双方向の改善された情報の流れを容易にし、必要があればそれを要求するために積極的に行動すべきである。REACHのこれらの用意について、EU以外の諸国での適用可能性と採用可能性が注意深く検証されるべきである

結論

 この報告書の中で特定される”最良の実施(best practices)”は、化学物質の安全性の合理的な確保を提供するために罰則や阻害ではなく十分な情報の開発を動機付けるために知識駆動型の政策に向けての転換することに役立てることができる。そのような政策はまた、化学物質の製造と使用から財政的な利益を得る立場の人々に、そして間違いなくそのような情報を自分のものにするために最良の立場にあり、最初から製品のリスク検証までそれを利用する人々に、情報を提供しそれを活用することについてもっと多くの負荷をかけることになるであろう。



訳注1:キャッチ22
ジョーゼフ・ヘラーが1961年に発表した小説。原題は "CATCH-22"。堂々巡りの状況での戦争を、混乱した時間軸のなか幻想ともユーモアともつかない独特の筆致で描いた戦記風の物語。狂気の戦争、戦争の狂気を描いた、現代文学の代表的な作品のひとつである。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%83%E3%83%81=22





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